業界で議論される認定スタンダード ― SDIが考える、安全教育の本質 ―

いま世界中のダイビング業界では、教育機関のトレーニングのあり方について議論が続いています。

「スタンダード通りに教えれば十分なのか。」

「インストラクターは独自の工夫をしてはいけないのか。」

「認定を出すこと」と「安全なダイバーを育てること」は、本当に同じなのか。

もちろん、どの教育機関にも長年培われてきた優れたシステムがあります。

標準化されたカリキュラムには大きな価値があります。

世界中で一定品質の教育を提供できることは、レジャーダイビングがここまで普及した理由の一つでもあります。

確信できることは、スタンダードは「ゴール」ではなく、「スタートライン」である。

ということです。

2025夏 長男 ナビゲーショントレーニング

海は教科書通りではない

透明度30m、流れのない暖かい海。

一方で、

透明度5m以下。

強い流れ。

低水温。

ボートエントリー。

大きな波。

同じオープンウォーターダイバーであっても、

求められる能力はまったく違います。

海は地域によって姿を変えます。

だからこそ、インストラクターには現場を見る力が必要になります。

講習生一人ひとりを見て、

「今日は人数を減らそう」

「もう少し練習しよう」

「今日は中止しよう」

そう判断できることが、本当の安全教育だと思っています。


「できた」と「身についた」は違う

2025年 夏 次男 ジュニアオープンウォーターダイバートレーニング

例えばマスククリア。

5回失敗して、6回目に偶然成功した。

その一回だけを見れば、

「できた」

と言えるかもしれません。

しかし本当にそのダイバーは、

落ち着いて、

自信を持って、

いつでも同じように実施できるでしょうか。

ダイビングでは、

極限状態になった時、人は”一番うまくできた時”ではなく、

普段できているレベル

までしか発揮できません。

だから私たちは、

「できた」

ではなく、

「安心してできる」

ことを目指します。

2025年 夏  私と次男

SDIがスタンダードを変更する理由

今回、SDI本部はオープンウォーターコースを中心にスタンダードを見直しました。

その理由は非常にシンプルです。

「もっと安全にできるから。」

新しい基準では、環境条件によって人数を減らす考え方をより明確にし、

インストラクターの裁量を尊重しながら、安全側へ判断できる内容になっています。

SDI はこの業界の問題を解決するために、他のメジャーな教育機関に先駆けて、2026 夏に安全性をさらに高めるためのスタンダード改訂を行いました。

今回の改訂は、講習時の安全性をさらに高めることを目的として、受講生比率やジュニアダイバーへの配慮など、多くの重要な変更が行われています。

オープンウォーター講習の受講生比率を見直し、大きな変更は、海洋講習におけるインストラクター1名あたりの受講生数です。

これまで最大8名だった受講生数は、6名へ変更されました。また、アシスタントがいる場合も12名から10名へ引き下げられています。

さらに、15歳未満のジュニアダイバーが参加する講習では、インストラクター1名あたり最大4名まで(15歳未満は最大2名まで)とし、しかも15歳未満は2名までときめ細かな指導が求められるようになりました。

環境に応じた柔軟な判断を明文化

SDIでは以前から、インストラクターが状況に応じて受講生数を調整する考え方を採用してきました。

ジュニアダイバーへの配慮をさらに強化され、認定後も、保護者、法的保護者、アクティブなダイブプロフェッショナル
の直接監督下で潜水することが改めて明確化されました。

また、この考え方はオープンウォーターだけでなく、多くのスペシャルティコースにも適用されています。

スタンダードは「ここまで教えれば十分」という基準ではなく、安全性や教育品質を継続的に向上させるための指針です。

今回の受講生比率の見直しや環境要因の明文化は、世界中で積み重ねられた経験や知見を反映し、インストラクターがより安全な教育を提供できるようにするためのものです。

重要なのは、

「昔の基準が悪かった」

という話ではありません。

安全は進化し続けるもの

SDIが打ち出している “Evolving Standards. Enduring Safety.”(進化するスタンダード、変わらない安全)という考え方です。

器材は進化します。

ダイブコンピュータも進化します。

医学も進歩します。

そして教育も進化し続けるべきなのです。

2025年 夏 次男 カメラ向けると変顔しかしない

We Care

SDIが現在世界中で掲げているメッセージがあります。

We Care

これは単なるスローガンではありません。

私たちは、

講習生を大切に思う。

インストラクターを大切に思う。

ショップを大切に思う。

そして何より、

ダイバーが10年後、20年後も安全に海を楽しめることを大切に思っています。

だからこそ、

「これまで通り」で満足しません。

より安全になる方法があるなら、

スタンダードも改善します。

教育も改善します。

教材も改善します。

それがSDIの考え方です。


インストラクターに求められるもの

私は、多くのインストラクターを育成しています。

その中で、いつも伝えていることがあります。

スタンダードは最低限守るもの。

しかし、

安全への配慮に上限はありません。

海況を見て人数を減らす。

講習生の理解度を見て時間をかける。

今日は認定を出さないという判断をする。

これらは決して”厳しい教育”ではありません。

講習生の未来を守る教育です。


最後に

認定カードは、一日で発行できます。

しかし、

安全なダイバーを育てるには、

インストラクターの経験、

観察力、

そして講習生一人ひとりに向き合う姿勢が必要です。

だからSDIは、

スタンダードを「守る」だけではなく、

スタンダードそのものを進化させ続けます。

安全に完成形はありません。

より良い教育を追求し続けること。

それこそが、

SDIが世界中で伝えている

“We Care”

という言葉に込められた、本当の意味なのだと思います。

投稿者のプロフィール

株式会社インターナショナルトレーニング代表取締役DaisukeKato
ダイビング教育機関SDI TDI ERDI JAPANの代表を務めております。小さな頃から水の中への憧れが強く、潜水部のある大学に入学しダイビングを始めました。ダイビングを始めてみると、やはり最高に楽しくて、在学中にインストラクターを取得し、卒業後は尊敬するインストラクターの所属するダイブセンターに就職しました。5年の修行を積んで、ダイブセンターを創業しました。

これまで様々なコースで2000人以上の方にダイビング指導を行い、世界各地を引率してダイビングツアーを開催しました。またテクニカルダイビングに出会い、100m潜水や洞窟や沈没船のペネトレーション(内部侵入)やリブリーザーなど様々なダイビングを楽しんでいます。いまは指導団体SDITDIERDIの代表の仕事を中心にプロコースやテクニカルコースの担当もしています。2000年からダイビングショップの経営もしています。