ケーブCCRダイビングの世界

2022年、ついにやりたかったケーブCCRの世界に入ることができました。
ずいぶん前からやりたかったのですが、日本でケーブCCRをやっている人がほとんどいなかったですし、ケーブCCRに対する恐れもありました。またどのユニットを選ぶべきか迷ってもいました。僕がセノーテに行き始めた12年前はバックマウントダブルが主流でしたが、数年でサイドマウントダブルが主流になりました。そして3年前にメキシコのセノーテで変化がありました。バックマウントでもサイドマウントでもオープンサーキットが主流だったところから、リブリーザーを使用するダイバーがちらほら見られるようになったことです。
ついに私もそろそろか!と感じました。
しかしコロナ禍となり、日本は鎖国状態。
トレーニングを受けることもできずただただ待つばかりでした。
そして2022年まだまだ条件は厳しいですが、海外渡航ができるようになり、やっとケーブCCRをはじめることができました。

危険×危険

一般的に、危険と言われる『ケ―ブダイビング』と『クローズドサーキットリブリーザーダイビング』この二つの危険なスポーツを掛け合わせたのが、『ケーブCCRダイビング』です。

ケーブダイビングの一番のリスクは、何かあってもすぐに水面に戻ってこられないことです。呼吸ガスから様々なトラブルまでケーブ内で対応できるスキルが必要です。そしてCCR(クローズドサーキットリブリーザー)の一番のリスクは呼吸ガスが適切かどうか確認しなくても簡単に呼吸ができてしまうことです。組み合わせが悪いと、まさに混ぜたら危険! なのです。

なぜケーブCCRを行うのか?

なぜそんな危険を組み合わせたようなダイビングスタイルを導入しようとするのか? 確かにリスクにリスクを合わせるような一面について解決しておく必要はありますが、やはりメリットも大きいからこそ導入するケーブダイバーも増えているのです。メリットはたくさんありますが、オープンサーキットと比較した場合、大雑把な意見ではありますが、運搬するシリンダーの数を減らすことができること。水中で泡がでないことが大きなメリットになります。

オープンサーキットで長時間ケーブダイビングを行う場合には、たくさんのシリンダーを運搬しなくてはいけません。深度にもよりますが、4時間のケーブダイビングを行うためには、安全面のバックアップも考えると、4本くらいシリンダーを装備しなくてはいけません。しかしクローズドサーキットリブリーザー(CCR)であれば、小さな酸素シリンダーを除いて、2本のシリンダーを装備すればよいイメージです。これは僻地での水中洞窟探検を考えるとロジスティック的に大きなメリットがあります。

またケーブダイビングでは、フィンキックなどで水底の細かなシルト(水底のチリ)が舞い上がって濁ることがありますが、オープンサーキットでは泡がでるため天井のチリが降り注いでくる現象で、パーコレーションと呼んでいます。しかしクローズドサーキットリブリーザーでは泡が全くでないためパーコレーションは起こりにくいことも未踏の洞窟などでは大きなメリットになります。

 

危険と安全は表裏一体

『それって危険ですよね?』ケーブダイビングやリブリーザーダイビングをやっているとよく聞かれる質問です。確かに危険なことです。しかし、どちらもリスクに対する予防法や対処法を学びトレーニングを繰り返ししっかり身に着け、自分の身の丈にあったダイブプランを立てることができるようになれば、安全性を確保することができるようになります。何が危険かはダイバー側の問題であることが多いです。

自分の身の丈にあったダイビングを行うことよりも、例えば、高速道路をドライブすることの方が、他人のエラーにより事故に巻き込まれる可能性が高いので、私にとってはある意味、高速道路の方が危険と感じてしまいます。ケーブの中には、基本的にしっかりトレーニングを受けたケーブダイバーがほとんどのため人災的なリスクが少ないからそう感じるのだと思います。

そして危険に対する重要なスキルはアウェアネス(周囲への注意力や状況の正しい認識など)です。このスキルは本来レクリエーショナルダイバーにとっても不可欠なものです。そしてテクニカルダイビングであるCCRもケーブのどちらのダイビングもアウェアネスを高次元に働かせられることで、安全性を確保することができます。アウェアネスを高く発揮するためには、浮力コントロールなどの基礎スキルが完成していることが必要で、潜ること自体に意識しなくてはいけない状態では、周囲や自分自身やチームメイトにアウェアネスを働かせることはとても難しくなります。どうしても人間は不完全なもので、ヒューマンエラーが起こります。このヒューマンエラーを起こりにくくするために準備をしたりトレーニングを重ねることが重要で、もしヒューマンエラーが起きても対応できるように想定外を想定していくこともとても重要です。まだまだ安全のために大事なことはいろいろありますが、今回はこのくらいで。

 

ケーブCCRトレーニングまでの道のり

今回は、ケーブCCRを始めるために、新たにユニットを購入しました。KISSというメーカーのSidewinderというユニットです。写真のように、サイドマウントに拡張させるようなユニットです。またM-CCRと呼ばれており、深度が変化しやすいケーブダイビングにはいくつものメリットがあります。

 

僕は8年位サイドマウントはRazorのBCDを使用してきました。オープンサーキットのサイドマウントだけで考えると一番気に入っているBCDです。ですから、SideWinderを始める時もできることならRazorに組み合わせようと思っていましたが、直前に考え方を変えて、教えてもらうインストラクターがおススメするXdeepのBCDで挑むことにしました。これも見解を広げるために、これまでと違うノウハウをしっかり学びたいと思ったからです。そのため、新しいコンフィグでどうするといいのか悩みながら、いろいろアドバイスもらいながら、自分の身体に合わせていきました。

このユニットを使用して、ケーブCCRを始めるためには、ユニットの初級コースを受講し、このユニットでの50時間のダイビングを経験しないとケーブCCRは受講できません。(リブリーザーが初めての場合は100時間の経験が必要です) このため今回の遠征ではまず初級コースを受講し、2週間、毎日4時間リブリーザーダイビングして、基準をクリアし、ケーブCCRダイバーコースに参加することができました。そのあともずっとSideWinderで潜り続けましたので、メキシコ滞在中だけで100時間ちかく潜ることができました。その間にいろいろ試してみたので、様々な発見がありました。

ケーブCCRの感想

まず受講してみての感想としては、すごくよかったです。という言葉になってしまいます。まず選んだユニットはとても気に入りました。様々な優秀なリブリーザーがリリースされていますが、ケーブダイビングのことを考えると、とてもよくできているなと思いました。M-CCRはオートマチックではなくマニュアル操作が必要になりますが、深度変化や長時間潜水になるケーブダイビングではこの方が都合よく調整できたのです。またサイドマウントにそのまま拡張することができるので、海でサイドマウントを使用していて、サイドマウントリブリーザーを始めたい人にも受け入れやすいリブリーザーだと思います。

次にケーブでリブリーザーを使用する場合に、考えられるリスクや不安要素がいくつもあるのですが、今までにない発想で、リスクやトラブルに対する解決方法があり、それらの不安をクリアにすることができました。

ケーブCCRを担当してもらったインストラクターはパトリックさん。いまはメーカーのKISSでトレーニングディレクターも任されており世界中を飛び回っています。この数年で、世界中でSidewinderが使われていますが、いまは、さらなる安全品質を高くするために、トレーニング内容を刷新しているところで、パトリックさんはその中心人物です。よって私たちはちょうど、その最新の内容をいち早く学ぶことができました。

今後はSidewinderを使用して、様々なダイビングを試していきますが、今回のケーブCCRで学んだノウハウは、今後に活かされていくと思います。またいくつか改造を加えて自分にとってさらに使いやすいユニットにしていこうと思います。これからのケーブダイビングやレックダイビングがますます楽しみです!!

投稿者のプロフィール

株式会社インターナショナルトレーニング代表取締役DaisukeKato
ダイビング指導団体 SDI TDI ERDI JAPANの代表を務めております。小さな頃から水の中への憧れが強く、潜水部のある大学に入学しダイビングを始めました。ダイビングを始めてみると、やはり最高に楽しくて、在学中にインストラクターを取得し、卒業後は尊敬するインストラクターの所属するダイブセンターに就職しました。5年の修行を積んで、ダイブセンターを創業しました。

これまで様々なコースで2000人以上の方にダイビング指導を行い、世界各地を引率してダイビングツアーを開催しました。またテクニカルダイビングに出会い、100m潜水や洞窟や沈没船のペネトレーション(内部侵入)やリブリーザーなど様々なダイビングを楽しんでいます。いまは指導団体SDITDIERDIの代表の仕事を中心にプロコースやテクニカルコースの担当もしています。2000年からダイビングショップの経営もしています。