NHK BSプレミアム 探検アドベンチャー 魅惑のポッカリ穴 視聴して反省


洞窟探検家の吉田さんの特番『魅惑のぽっかり穴』をやっと視聴できました。
洞窟にも同行したディレクターの佐藤さんとLINEで話していましたが、この番組がすごい反響!! ととても喜んでいました。

僕は後半の奈良の水中洞窟の吉田さんのバディ兼カメラマンで潜りました。
水温7度の狭い洞窟です。

番組なので、多少ドラマチックな演出がされていました。何人かの人から、無茶しちゃだめだよ~とご連絡もいただきました。
ただ、お伝えしたいのは、無茶は0%で潜っています。
クレイジーと思われる吉田さんも長いこと探検して毎度生きて帰ってこれているのは、引き際をよく知っているからです。
能力の範囲内の余裕のある潜水を行っているという意味で、無茶0%なのです。

[振り返り]
番組で潜水の映像もみました。ケイブダイバーのお手本としてはお粗末、、超反省です。

番組なので、多少の着色はしかたないことですのでそのあたりは置いといて、、

吉田さんが番組を見ごたえのあるものにするために、先頭でラインをはりながら、自撮りもするのです。
ケイブダイビングしている人ならわかると思いますが、片手はリールを引きながら、もう片手は自撮り棒を持っているのです。
リールのラインをタイオフするときは、両手が必要です。自撮り棒とラインタイオフは両立できるものではありません。
それを吉田さんは器用にやっていたのです。

この写真のようにあの状況でばっちり自撮り撮影出来ているのはさすがです。
しかし、その分、ラインに対して意識が回らず、せまく真下や横にぐねぐねとまがるケイブを進む中で、身体の上にラインが回ってしまっている場面もありました。
私も吉田さんを撮影することに手いっぱいで、ラインを直したりサポートすることができなかった。プロとして反省です。
次の探検や番組のために、いくら撮影に集中しないといけないときでもケイブダイバーのお手本となるデモンストレーションをしないといけないと強く思いました。

僕はドライケイブは専門外でしたが、決死の覚悟で追いかけているのではなく、ワクワク本当に楽しい気持ちで吉田さんを追いかけていました。

今回の洞窟はたしかにせまいのですが、シリンダーは40cfのサイズですし、器材が挟まるほどせまいところやシリンダーを外さないといけないようなところは通過していません。
しかしゴープロで撮影された水中映像はなかなかダイナミックに映ります。
とても狭い場所を進入しているようにも見えます。
よってサイドマウントでのケイブダイビングをよく知っている人なら、リストリクションなのに、BCDやドライスーツの中圧ホースは外していないことが気になったり、
ドライスーツでのインフレーターの向きが気になった人もいたかもしれません。
実際の場面ではまったく必要ないレベルであっても、デモンストレーションとして、誤解を招くようなことがあってはいけない。
次からはどんな人がみてもどんな解釈でも非の打ちどころがないようにしなくてはいけないと映像みて感じたことです。

またケイブダイビングでは、ラインを岩にしっかり張っていくのが、当然のことです。
吉田さんのラインテクニックは精度においてもスピードにおいてもかなり磨かれています。
形だけラインを張るのではなく、かなりガチガチに固定することをしています。
それがゼロビジ(無視界)の際に安全性を高めてくれるからです。
しかし、吉田さんは自撮りしていますし、私も吉田さんを撮影している。かといってこれ以上ダイバーが入ることはよりリスクが上がる。
難易度の高いところほど撮影が欠かせないですし、ラインのタイオフも必要となる。両方はやり切れず、中途半端となった場所もありました。
ここに書いた難しい課題を知恵を絞って解決していきたいと思う。
このあたりも吉田さんと反省会を開き、次の撮影では、ケイブダイバーとしてよいデモンストレーションをしようと誓ったのでありました。

[探検とマインド]
吉田さんと出会って、5~6年経ちました。
時間をかけて信頼関係を築いてきました。
お互いによい形で自分をさらけ出していると思います。

ドライケイブで日本一の吉田さんは、この5年でケイブダイビングの経験をたくさん積んできました。
とはいえ、ケイブダイビングの経験値やスキルとしては、吉田さんよりたくさん積んでいる人はいます。
高いスキルをもつことも信頼のひとつになりますが、探検において大切なのは、おしどり夫婦のように心が通い合っていること。
二人の関係は、いつも正直にオープンマインドで、リスクが高くなる予兆を感じれば、迷うことなく撤収できます。
好奇心、欲望、エゴ、見栄、プライド、自信、ピアプレッシャー(仲間からの圧力)といった前に進む原動力が探検を支配しているのでなく、
安全、快適、生存本能、平常心、冷静さ、謙虚さといった、抑止力が探検を常に支配しています。

例えば、大変な思いをして、器材を運び込み、最高のチャンスの時に、どちらかが、立ち止まりたくなったり、コール(終了)サインをだしたとしても、
どちらも寛容に相手の気持ちを尊重することができます。この関係が私たちの強みのひとつだと思います。

探検中によりよいメンタルでリスクをコントロールするためには、チームメンバーとの真の信頼がなくてはいけません。
互いにオープンマインドで、相手のペースを尊重することが大切です。
冒険家は命をかけて行動しますが、探検は『生きて帰る』がモットーです。
例えば、目的達成が優先の人ですと、目的を達成するために、チームメンバーに無理強いをする場面もあるかもしれません。
ビジネスの世界では多少無理して失敗してもやり直しがきくかもしれません。
しかしすべてが制限されたケイブダイビングの世界では、赤信号をわたるようなことは絶対にしてはいけません。
または、見栄やプライドで、すでに自分の限界にきているのに、仲間にいいだせなくて探検を続けてしまうこともあってはいけないことです。
ピアプレッシャー(仲間からのプレッシャー)を感じてはいけません。
弱音を吐く。ということが大事です。しかし、弱い心でいいという意味ではありません。
例えばコップに水が溜まっていくようにストレスを理解することです。メンタルの世界において、弱気やプレッシャーといったことに対して、ストレスマネジメントができることが大事です。
器がいっぱいになったらいけません。ストレストレーニングといわれるものでストレス耐性の器(コップ)を大きくしていくことです。
そして自己評価が実際とイコールであることが大切です。自分のことが分かっていないと、自分の限界は把握できません。
どうやって自己レベルを測るのかというと、自身の事をどれだけ客観的にみようとするかです。
そして、チームメイトとのデブリーフィング(探検後の潜水評価)で相手からの評価や指摘にどれだけオープンマインドになれるかです。
中には批評家タイプの方もいます。確かに高いスキルやマインドをもつために高みを目指すために指摘することは大切ですが、マウントをとるみたいに批難ばかりされるとストレスもたまります。
批評家タイプの人から本質的なことを学ぶことも多いので、例え傷ついたとしても、私は磨かれていると考えてオープンマインドを貫くことも大事でもあります。
また相手に気を使いすぎて、ストレスをためて、溜まってから吐き出す人もいますが、急なことでびっくりすることもあります。
このタイプの人は、本音がわかりにくく信頼関係を築くのが難しいかもしれません。ストレスをため込むタイプだなと感じる人は、相手にストレスが溜まってきたら、その問題は自分のエゴからくるものなのか、チームのために本当に相手を思って相手に良くなってほしいと思って伝えたいことなのか区別しておくと、良いタイミングでよい伝え方ができるようになるのではないかなと思います。エゴではなく、相手のために自分に正直に正しく認識していくことだと思います。
レクリエーショナルのテクニカルダイビングと探検は別物ですが、マインドとしては共通していえることです。

繰り返し伝えますが、バディと強く信頼できる関係を作るには、いいところも悪いところも含めて、お互いを理解し認め合っていることが大切です。
『やっぱ器がでかいっすねー。』と感じたときに吉田さんに伝えると、吉田さんは『俺なんてちぃっちぇえよ。』と謙虚に言っていましたが、
人間性、人間の器の大きさ、寛容さ、相手への理解力、心配り。相性もあると思うので、これが正しいと断定はできないことですが、
スキルの高さだけでなく、最後は人間性がチームダイナミクスを構築するうえで最も大事だなと改めて感じる吉田さんとの探検でした。
スキルは吉田さんに教えていますが、良いマインドは吉田さんから学ばせてもらっています。

高いスキルと人間性を磨くこと、探検を行ううえでどちらも大事ですね。
これからもたくさん学びながら、吉田さんとの探検を楽しみたいと思います。

NHK BSプレミアム 探検アドベンチャー 魅惑のポッカリ穴

投稿者のプロフィール

株式会社インターナショナルトレーニング代表取締役DaisukeKato
ダイビング指導団体 SDI TDI ERDI JAPANの代表を務めております。小さな頃から水の中への憧れが強く、潜水部のある大学に入学しダイビングを始めました。ダイビングを始めてみると、やはり最高に楽しくて、在学中にインストラクターを取得し、卒業後は尊敬するインストラクターの所属するダイブセンターに就職しました。5年の修行を積んで、ダイブセンターを創業しました。

これまで様々なコースで2000人以上の方にダイビング指導を行い、世界各地を引率してダイビングツアーを開催しました。またテクニカルダイビングに出会い、100m潜水や洞窟や沈没船のペネトレーション(内部侵入)やリブリーザーなど様々なダイビングを楽しんでいます。いまは指導団体SDITDIERDIの代表の仕事を中心にプロコースやテクニカルコースの担当もしています。2000年からダイビングショップの経営もしています。